こんにちは。個別指導グノリンクの 『リンクペディア 3分コラム』を読んでくれてありがとうございます。

近年、語源の知識を使って英単語を覚えることが流行ってきています。
しかし、ただ流行っているだけで、語源をどのように使って勉強すべきかについては、そこまで考えが普及していないように思えます。
リンクペディアでは、語源を扱う学問である語源学とはそもそも何かということからスタートして、英単語の勉強に語源の知識をどのように使うべきではないのか、そしてどのように使うべきなのかについて考えていきたいと思います。

その1:語源学とは何だろうか。
昨今の日本では、英単語の語源を学ぶこととは、英単語を正しく分解できるようになることだと考えられているようです。
例えば、real という単語であれば、これを re という語根と、-al という接尾辞に分けられること、disease という単語であれば、dis-という接頭辞と ease という語根に分けられることが、語源を学ぶことになっているようです。
しかし、これで英語の語源がわかったことになるのでしょうか。
寺澤(1997)¹ によれば、

語源学の目的は、特定言語の単語の音形(発音・綴り字)と意味の変化の過程を可能なかぎり遡ることによって、文献上または文献以前の最古の音形と意味を同定または推定し、その言語の語彙組織におけるその語の位置を通時的に決定することにある。

ここで注目したいのは、変化の過程を遡るという点です。
つまり、ある英単語を接頭辞・語根・接尾辞に分解するだけで語源学は終わりません。したがって、ある単語の意味が出来上がるまでには、その単語を構成している接頭辞・語根・接尾辞とは異なる要素も関係していることが確認できます。

例えば「盗み聞きをする」を意味する面白い単語 eavesdrop があります。
この単語が eaves と drop という要素に分けられることは言うまでもないでしょう。
前者は家屋の軒を意味し、後者は落ちるを意味します。
しかし、これらの意味をどう組み合わせても「盗み聞きをする」という意味にはなりません。

語源について調べるとどのようなことがわかるでしょうか。
先ほども引用した『英語語源辞典』によると、この単語の意味は「家屋を建てるとき雨だれが相手の土地を損なわないように隣家の境界から2フィート離さねばならないという慣習² 」に由来しています。
また、eavesdropper という単語の原義として「立ち聞きするために軒下に立つ人³ 」という意味が紹介されていることから次のような推測ができます。

この慣習に基づいて eavesdrop がある家の雨だれが落ちる土地の範囲を意味するようになり、その意味に基づいてこの単語が家の近くに立って家の中の会話を盗み聞きする動作を表すのに使われるようになった、という推測です。

eavesdrop の意味形成にはこの単語が使われていた社会の慣習が関わっていました。
この例が示す通り、ある単語の意味形成には、その単語を構成する要素以外のものが往々にして関係しています。

ということで、ここまでで、ある英単語の意味の形成には、その単語を構成する接頭辞・語根・接尾辞以外の要素が関わることを確認できました。次の記事からは、接頭辞・語根・接頭辞に関する知識を「語源的知識」と呼び、語源学で扱われるような意味での語源とは区別して使います。

その2に続く。

¹寺澤芳雄. 1997. 「語源学解説」『英語語源辞典』寺澤芳雄[編]. 研究社. 1645-1685.
²寺澤芳雄[編]. 1997. 『英語語源辞典』研究社.
³同上